修身 -日本と世界-

『教育勅語』や『修身』という既に日本の教育現場からは消え去った言葉があります。消えてしまったのは、言葉だけでなく、そこに含まれる概念や教育の要素まで言葉と共に失われつつあるのが、現代の日本の状況なのかも知れません。

戦後の日本の教育は、GHQによるアメリカの占領政策の中で、戦前のものとは大きく異なるものとなりました。戦後66年を経てその過程でよりよいものになった面もあれば、惜しくも失われてしまったものもあるはずです。戦後は、戦前の教育を全否定してきた一面もあり、半世紀を過ぎた私たちは、よりニュートラルな視点から、それらを見つめ直し、価値のあるものは、後世の日本へと受け継いでゆくことが必要と感じます。

そんな中の一つに、「修身」があります。現代では、徳育、少し前の世代では、道徳と呼ばれていたものです。現代の教育では教科にはなっていないため、教科書は無いですが、戦前の教育では、修身科は、重要な教科の一つで子ども達の人格の成長と形成に役立てようとしておりました。

では、過去の産物と言われていた日本の道徳教育である「修身」は、本当に価値の無いものであったのでしょうか??

いいえ、現在、第二のバイブルと云われ、世界的なベストセラーとなっている、「The Book Of Virtues」は、なんと、日本の修身の本を手本にして書かれたものだったのです。米国は、戦後に日本の戦前の教育を全否定させておきながら、1990年代になって、必要に迫られてそれを米国内で復活させ、教育の現場に提供させたのです。日本人にとっては、何とも皮肉な話しです。

The Book of Virtues: A Treasury of Great Moral Stories[洋書]

そして、日本の修身の本 『これが修身だ』(小池松次著 1970年の出版)が、「The Book Of Virtues」のオリジナル本になります。この本は、既に絶版になっており、現在入手出来ないのが残念なところです。小池先生は、1970年以降もこの本を本の題名をを変えた形で出版されておりましたので、古本や等を探せば、オリジナルを手にすることが出来るかも知れません。私も九州の古本屋で1冊見つけることができ、購入しました。

小池先生によるその当時の逸話を下記にご紹介します。

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レーガン大統領と日本の修身
あすか会教育研究所 所長 小池 松次
 レーガン大統領は就任すると直ちに道徳教育の復興に乗り出しました。当時のアメリカの青・少年の風紀は最悪で、暴力や麻薬の蔓延で荒廃の極に達していました。その原因は皮肉なことに、最高裁判所が「生徒規則や学校規則で生徒の自由を束縛してはならない」と決めたことでした。自由奔放で、やりたい放題で、規律や道徳教育不在では、まともな人物は育ちません。学校教育は成り立ちません。「アメリカは滅ぼされる」とレーガン政権は真剣に対策を検討しました。では一体、誰がアメリカを滅ぼすのでしょうか。敵軍ではありません。それは不良集団と化したアメリカの青少年達でした。

 その道徳教育改革のメンバーの一人が文部長官(日本の文部大臣に該当)を務めたW・ベネット氏です。彼は退任直後、レーガン政権の道徳教育の担当者としての知識を「The Book of Virtues」(道徳読本)という名の本にして出版しました。1993年(平成5年)のことです。この830頁もある大著が「第二の聖書」と言われるほど毎年ベストセラーになったそうです。「そうです」とは、当時筆者は「道徳読本」の存在を全く知らなかったからです。

 一方、日本では昭和45年5月(1970年)に筆者が「これが修身だ」という本を出版しました。内容は、明治37年から昭和20年(1904~1945年)までの修身と国語の国定教科書の中から、現代でも立派に通用する話を92篇選び出し、それを22の徳目に配分したものです。

 東販・日販が2万部を全国の書店に配本してくれたので期待していたら、有力な全国紙が、芥川賞作家と直木賞作家の2人を使い、ご丁寧にも2人の顔写真まで入れて、「古い道徳を集めた悪書だ」と大々的に報道したので売れ行きは散々でした。意気消沈していた時、東京のアメリカ大使館から、「ワシントンのアメリカ国立図書館に貴方の本を送ります」と、わざわざ注釈を付けた「これが修身だ」の注文書が筆者宛に舞い込みました。「棄てる神あり、拾う神あり」の諺に親近感を覚えた瞬間でした。

 翌年「昭和四十六年五月(1971年)に、また、「教育勅語絵巻物語」を出版しました。この本も「これは修身だ」同様、四つの新聞に保守反動だと大袈裟に批判されました。終戦後の世間の風潮は、「修身」と「教育勅語」を軍国主義の象徴だと勘違いして「目の敵」にしていたのです。しかし筆者は、「教育史学」のプロ意識と「國際比較教育学」の細かな見識を拠り所に、また、「No Gains without Pains(苦痛なくして進歩なし)」・「継続は力なり」の格言を支えに、浅学菲才を顧みず、「たった一人の反乱」に意地を通し続けて来ました。
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小池先生の修身と教育勅語に関する50余年の調査研究の集大成として執筆された、『教育勅語と修身』が、先月漸く出版されました。この本は、小池先生の思想や言論を一切含まない、貴重な歴史的資料として書かれております。世界からみた修身と教育勅語について、戦前の出来事から「The Book of Virtues」の米国での誕生に至るまでの内容が書かれております。

『教育勅語と修身』の本は、有志による自費出版のため、一般の書店では手に入りません。下記のサイトからご購入することが出来ます。
http://www.moral-science.com/

時代を超え、良いものは良いと素直にみとめ、社会に取り入れて行ける柔軟な日本の国であって欲しいと切に願います。

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